企画トップスペシャルインタビュー
株式会社ニチレイ 
代表取締役会長 浦野光人氏

Profile
愛知県出身、
1971年横浜市立大学文理学部を卒業後、
日本冷蔵㈱(現㈱ニチレイ)に入社。
低温物流企画部長、情報システム部長、
経営企画部長を歴任し、1999年取締役に就任。
2001年代表取締役社長、
2005年㈱ニチレイフーズ代表取締役社長を兼任、
2007年より㈱ニチレイ代表取締役会長に就任。


『対話』の本来の意味を実感

ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験されたご感想、暗闇で感じられたことを教えてください
体験前は、多少は目が慣れるものだと高をくくっていたのですが、その完全なる暗闇に入った瞬間、これは大変なことだと少なからず恐怖を覚えました。しかし、すぐに目以外の感覚が開き、草のにおいや葉を踏みしめる音、木の質感など、触覚や嗅覚、足の裏の感覚で空間をとらえることの心地よさ、見えないものが見えてくるような感覚がとても新鮮な驚きでしたね。

ご体験前と価値観に変化はありましたか?
しばらく時間がたつと、暗闇に一緒に入った方々とも打ち解け、様々なアクティビティのなかで『対話』の本来の意味がわかってきたように思います。

日常、会社で仕事をしていると自分自身は対話と思っていても、実は単なる演説であったり独り事であったり、一方通行で話していることが多々あります。あるいは、討論や会議の場面においても、初めから結論が決まっていることや、意見を変える気もないまま討論をしていることなど、会社のなかだけではなく、社会全体でその風潮があると思いました。

この体験を通して見えてきたのは、対話というのは真剣に伝えようと努力しなければ伝わらず、聞き取ろうと努力しないと相手の状況をつかみとることはできない。ダイアログ・イン・ザ・ダークではまさにそのことを実感するシーンがたくさんありました。本来の対話は、状況に応じた言葉の応酬によってコミュニケーションをきちんと図っていくことなんだと気づきましたね。

ビジネスシーンを含め、日常の言葉のやり取りはほとんどが対話ではなく会話。対話の場面は意外と少ないと、改めて感じました。

そう考えると、この暗闇のワークショップにダイアログという表題をつけられたのは素晴らしいこと、ギリシャの哲学者プラトンの対話編を思い出しました。

対等なパートナーシップの構築に

ビジネスにおける、ダイアログ・イン・ザ・ダークの効果的な活用シーンについてお聞かせください
企業の意思決定において新たな可能性を感じました。意思決定の場面では、トップダウン、ボトムアップが昔から代表的ですが、それ以外の方法も状況によっては行われています。

たとえば商品開発の時には、お互いが対等な立場で自由に意見を出し合うなど、関係性の枠組みをはずしパートナーシップで意思決定を行う場面もあります。しかし、部署間や企業間で対等な関係性を築くことはそれほど容易なことではありません。

当社は消費財を扱っていますから、スーパーなどの小売店業界は直接関わるお客様です。その小売店様と対等な立場で、本来のお客様である生活者のことを一緒に考え提案することが重要なことはロジカルには理解できていても、現実的にはとても難しいことです。

トップダウン、ボトムアップの意思決定は信頼のない関係性でも成立することがありますが、対等なパートナーシップを目指すならば、とことん信頼し合わなければ成り立たないからです。

しかしこの暗闇体験によって、信頼関係を構築するには非常に効果的だと思いました。取引先とのコラボレーションや社内のイノベーションなど、新たな可能性が生まれるきっかけになると思いますね。

当社のケースだけではなく、企業にはそれぞれ取引先が存在し単独で完結する仕事はほとんどありません。川上にも川下にも関係企業があり、それらのコラボレーションはできているようで、実はほとんどがその序列の枠組みの中での会話です。その枠組みを外してみると、企業同士の対等なチームワーク、パートナーシップによる新しい価値が生まれる可能性が非常に高いのではないでしょうか。

取引先と親交を深めるためにゴルフに行くのもよいですが、ダイアログ・イン・ザ・ダークを一緒に体験し、その気づきを肴に会食をしたらゴルフ以上の効果があると思います。

義務的な受け入れから戦略的な創出へ

ダイバーシティとダイアログ・イン・ザ・ダークについての考えをお聞かせください
日本は島国ということもあり、限られた人種のなかで国籍、男女、学歴などにおいて異質を排除し、同質的な社会をつくりあげてきました。そして、企業はそれを前提に成長してきました。

極論ですが、今までの日本企業は限りなく同質的な秘密結社ともいえます。高度成長の終わりまではそれで通用したのかもしれません。しかし、現在のグローバル化が急激に進む社会では、同質的な日本企業では、価値観の違う海外企業との対等な対話はできません。

今ようやく、多様なものを受け入れなければならないということが日本社会全体に理解されはじめてきました。しかし多くの日本人が皮膚感覚ではまだ理解しきれていないのが現状です。義務的に受け入れようと社会が意識しはじめた段階にすぎません。

しかし、これからは義務的にダイバーシティを受け入れるのではなく、戦略的にダイバーシティを創出していくことがあらゆる組織にとって新しい価値を生み出すことにつながるのだと思いますね。だからといって同質性を排除すべきというわけではなく、同質性が必要な場面もあるでしょう。それに加えてダイバーシティを戦略的に活かしていくことが求められると思います。

今は単にダイバーシティがモザイク状にできてきただけです。ダイバーシティから何かを生み出し成果を出さなければ意味がありません。特に障害をお持ちの方においては、今まで企業はその優れた感性に気づいていませんでした。ユニバーサルデザインにしても、誰もが使える、すなわち障がい者の方が健常者の方と同じように使えることを目的にしてきたと思いますが、それをもう一歩超えたところに今までとは違う価値が生まれるのだと思いますね。

ダイアログ・イン・ザ・ダークのアテンドの方々を見ると、視覚を使わずとも様々な感性を駆使して生活されており、障がい者の方は健常者がもっていない優れた感性をたくさんもっていると知りました。

我々は今まで、障がい者の方々の存在に枠をはめて考えていました。接する機会が極めて少なく、理解しようとしてこなかったからです。ですから、ダイアログ・イン・ザ・ダークは視覚障がい者の方がアテンドをされているということに、大きな意味があると思います。我々がダイアログ・イン・ザ・ダークを体験し、視覚障がい者の方々の感性や能力を知ることで、今までの固定概念を崩し、我々に新しい価値をもたらしてくれるのですから。