企画トップスペシャルインタビュー
みずほ証券株式会社
取締役会長 横尾敬介氏
 
Profile
大分県出身、
1974年慶応義塾大学商学部を卒業後、
㈱日本興業銀行(現㈱みずほフィナンシャルグループ)入行。
ニューヨーク支店調査役、新日本証券㈱(現みずほ証券㈱)総合企画部長、
みずほ証券㈱常務執行役員等を経て、2005年取締役副社長、2007年代表取締役社長を歴任。
2009年5月新光証券㈱と合併した現在のみずほ証券㈱代表取締役社長、
2011年6月取締役会長に就任。
 
想像力が豊かになる体験

ダイアログ・イン・ザ・ダークを体験されたご感想、暗闇で感じられたことを教えてください
日ごろいかに目からの情報に頼って生活をしているか、ということにまず気づかされました。目に頼ることをあきらめてから、初めてこの体験は始まるのだと思います。最初は恐怖を感じましたし、声を掛け合うことに抵抗もありました。しかし、声を発しないと自分の状況を伝えられない、そして相手の声がないと周囲の状況は全く分からない、声というのは非常に重要な情報なのだと気づきましたね。
その状況を後によく考えてみると、視覚が失われることによって視覚以外の感覚(聴覚、触覚、嗅覚、味覚)をフルに活用し、自分の置かれている環境、状況を一所懸命把握しようとしていました。目を使わないことを前提に物事をとらえ考えていくことで、想像力がものすごく豊かになっていたんですね。
いつのまにか、頭の中では色々な映像を想像していました。恐怖に感じていた暗闇に、楽しささえ覚えてきましたし、コミュニケーションも積極的にとるようになっていました。
暗闇から出る頃には、一緒に体験された皆さんとも非常に親しくなっていました。それには私自身が驚きましたね。わずか90分ほどの時間で人間がこれほど変われるものかと。
五感の多くを占めている視覚を完全に遮断することで、恐らく本能や眠っている感性が必死になってその穴を埋めようとするのでしょう、人間には驚くべき能力があるのだと実感しました。

ご体験前と価値観に変化はありましたか?
目から入る情報が非常に多いため、見えていることで幻惑されてしまうことも多いのだと自覚しました。とくに人と人との関わりにおいては、身なりや表情など、見えることで余計な情報となってしまうこともあります。視覚情報を閉ざすことで、ピュアな気持ちで関わりあうことができるのではないでしょうか。
真剣に伝え、相手をできるだけ理解しようとしますから、最も必要な情報や本質がダイレクトに伝わるのだと思います。
 
体験の振り返りが仕事を活性化させる
 
ビジネスにおける、ダイアログ・イン・ザ・ダークの効果的な活用シーンについてお聞かせください
人と人とのコミュニケーションを活発にし、相手の立場を考えることにとても役立つと思います。暗闇のなかでは、だれもが不安になります。非常に謙虚になれるんですよね。ですから周りの情報や意見を受け入れようとします。その体験によって得た気づきを意識的に仕事や生活に反映させていく、そういう展開ができるとよいと思います。
必要なのは、体験の振り返りを必ずやること。どのような変化があったか、何に興味をもったか、あるいは自分自身の今までのあり方はどうだったか、などをきちんと整理することです。
私も、この体験を当社の社内報のコラムに書きました。振り返って自分自身の言葉で整理することで、仕事の活性化につなげられると思います。
当社でも、ダイアログ・イン・ザ・ダークを研修プログラムに取り入れられるよう検討していきたいと考えています。当社は2009年に旧みずほ証券と旧新光証券が合併しました。合併直前、両社の部店長を集め私が挨拶をしたとき、最初に『尊重とコミュニケーション』の重要性について話しました。そしてこれまで社員には一貫してこのメッセージを伝え続けています。同じグループ傘下にあった証券会社同士であっても、企業文化、価値観は異なります。その2社が連携し、同じベクトルに向かって、新しい文化を創りあげていくには、お互いの立場を考え尊重した上で、コミュニケーションをしっかりとることが大切です。
とくに、今の若い社員は、背中合わせに座っていてもメールでやり取りをする傾向があります。議論をしておくよう指示しても一方がメールを送って終わりという話も聞きます。
メールやインターネットが普及したことで、生産性向上や業務の効率化などには大変寄与していると思います。しかし、人間の本来持っているコミュニケーション能力を退化させてしまっているひとつの要素でもあると、ダイアログ・イン・ザ・ダークの体験をとおして感じました。社員が体験することで『尊重とコミュニケーション』の意味をしっかりと理解し、その風土を社内に根づかせるよいきっかけになることを期待しています。
五感すべてを感じられることがあたりまえじゃなくなったときに、初めて気づくこともたくさんあると思います。疑似体験できることもダイアログ・イン・ザ・ダークの大きなメリットですね。健常者であることのありがたみや大切さを理解することで、他者の立場や考えを推し量ることができます。この体験にはそのようなチャンスがありますから、できるだけ多くの社員に体験してもらいたいと思っています。
また、こんな利用方法も面白いと思います。当社の社員のなかでとりわけ営業成績のよいメンバーの話を聞くと、それぞれ自分自身のやり方や特徴を持っていますが、ひとつ共通点があります。それはお客様主義ということ。お客様とのコミュニケーションが活発で、お客様の立場に立ち、パートナーとして接することができています。そのプロセスは社員間で共有されて可視化はされていますが、可視化されただけでは本来の共有はできません。そこで暗闇のなかでそのプロセスを、体験談として話し共有することがとても有効なのではないでしょうか。話し手も聞き手も羞恥心などのバリアがはずれ、人間本来のピュアな部分がでてきますから。そうすると吸収度合いが変わり効果が表れてくると思いますね。
 
一人ひとりの能力を最大限に活かせる環境を
 
ダイバーシティとダイアログ・イン・ザ・ダークについての考えをお聞かせください
当社がダイバーシティ経営への取り組みを始めたのは、今から6年ほど前になります。
今でも日本はダイバーシティに対しての取り組みが世界に遅れをとっていますが、当時はダイバーシティという言葉さえ一般的ではありませんでした。当社はさまざまなバックグランドを持った社員が多いため、ダイバーシティという考えを軸に社員の意識をまとめていくこともひとつの方法だと思いました。
しかし、当時外国人および女性の管理職は若干名という状況であり、そこからスタートしました。女性社員を管理職に登用するには男性社員に対しての意識改革も必要ですし、女性社員の考えも変えなければなりません。それを始めたときに、男性社員からはなぜ女性社員ばかり優遇するのか、という声もありました。人間は保守的ですからそれまでの環境からの変化、女性社員が対等な立場になることに抵抗感を示したのでしょう。
現在は、女性管理職数はまだ十分とはいえませんが、全社的な意識改革はされています。
ダイバーシティを推進していくには、まず経営としてダイバーシティの位置づけをはっきりさせること。そうしなければ社員はその方針に従うことができません。ダイバーシティとはひとことで表すと多様化する人材を活用することです。やはり少子高齢化、グローバル化という問題に直面していくなか、ダイバーシティの推進は必要不可欠です。
徐々に社会全体で女性や外国人の管理職登用が進められつつも、障がい者に関しては、企業の義務として雇用しているケースがほとんどで、本質的な雇用にはなっていないと感じています。限られた職種だけではなく、どうしたらその方の能力を最大限に引き出すことができるかを考えなければならないのです。
しかし、それ以前に、多くの会社の設備は障がい者の方が会社生活を送れるようにはなっていませんし、サポーターがいないことも問題としてはあると思います。能力の活用と同時並行で、障がい者の方が働きやすい環境を整備し、サポート体制をつくっていかなければなりません。
それが、我々企業が取り組むべき次のテーマでしょう。とても難しいことですが、難しいからやらないのではなく、難しいからチャレンジしていくことなんだと思います。
 
ダイアログ(対話)についての考えをお聞かせください
対話をするということは、人と人との感情や気持ちが交錯することです。社内でも家族においても、対話が欠如したことで勘違いが生じるといった経験をした人はいると思います。対話というのは人と人との気持ちを活性化する重要なツールであり、人間の原点だと思います。言語が生まれているということは、お互いが理解しあえる共通語をつくったということですから。
話すことで人はストレスがなくなります。対話をして、「わはは」と笑うことで人の気持ちは豊かになります。とても大切なことだと思いますね。